と、認めた。
「そしてそれは嘘じゃないわ。私はあなたに絶対に嘘はつけない。知ってるでしょう?あなたも私に嘘をついてくれないもの」
そしてね、と続けた。春夫は部屋の中に向き、瑠璃子をじっと見つめている。これから自分が言おうとしていることの、あまりの淋しさに、瑠璃子はたじろいだ。まるで、言葉が胸のなかで凍りついたみたいだった。
「そして、何?」
瑠璃子は春夫をにらみつける。春夫はいつも容赦がない。
「そしてね」
瑠璃子はようやく口を開く。ぞっとするほど淋しい声になった。
「なぜ嘘をつけないか知ってる? 人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに」
「スイートリトルライズ」江國香織
私は。
いろんなものに嘘をついた。
「行って来ます」と家を出る時も。
そして、私を見つめてくれた彼らに「大丈夫。淋しくないから」と言ったときも。
きっと、私には守りたいものが多すぎたのだと思う。
*****
先々週の日曜日。
近くのショッピングセンターにお買い物に行ったときのこと。
4階からの下りのエスカレータに乗ろうとふと階下を見下ろすと、彼の後姿が。
会社のなかではなくてそれも私服姿で、その上後姿なのに、なんでわかってしまうんだろう。
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